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高知家庭裁判所 平成9年(少)610号 決定 1997年6月24日

少年 C(昭和○年○月○日生)

主文

1  平成9年(少)第610号事件

少年を教護院に送致する。

2  平成9年(少)第614号事件

本件を高知県立○○児童相談所長に送致する。

少年に対し、平成9年6月24日から向こう1年間の間に、90日間を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(非行事実)

少年は、A少年と共謀の上、平成9年5月23日午前8時30分ころから同9時ころまでの間、高知市<以下省略>所在のa神社において、同神社総代B管理にかかる現金約3200円を窃取した。(平成9年(少)第610号)

(法令の適用)

刑法60条、235条

(強制的措置許可申請の要旨)

少年は、平成7年6月から高知県立b学園(教護院)に入園し、同9年4月2日、家庭及びc中学校(3年生)に復帰したが、同月末ころから、窃盗等の非行歴を有する同中学校の非行少年グループの者と交遊し、母親の注意を聞き流し、自宅に寄りつかず、深夜徘徊、無断外泊を重ねたため、同年5月21日に再度同学園への入園措置がとられたが、翌日に同学園を無断外出するなど、教護院の指導にも従わず、もって、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り附かず、犯罪性のある人と交際し、その性格、環境に照らして、将来、窃盗等の罪を犯すおそれがある。

少年は、平成7年6月から同9年1月までのb学園入園中、無断外出が15回あった。同年5月21日の入院措置復活後も、3日間に2回無断外出し、同月23日に発見保護された際にも暴れるなど、行動に歯止めがきかない状態であって、少年自身同学園に戻る意思はなく、このまま同学園に帰園しても同様の行動を繰り返す虞が大きいので、強制的措置をとる必要がある。

(平成9年(少)第614号)

(処遇の理由及び当裁判所の判断)

1  本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  少年は、空き家での火遊びにより椅子を焼燬したり、神社の賽銭を窃取したり、自宅の近隣の畑の作物を切り倒すなどの非行により、d警察署長から高知県立○○児童相談所長に対する通告(児童福祉法25条)が度々なされ、平成7年5月30日付け通告に基づく同法27条1項3号の措置により、同年6月8日に高知県立b学園(教護院)に入園したが、その直後から無断外出を繰り返した。

同9年4月2日、少年に中学生生活を体験させるなどのため、右措置が停止され、家庭及びc中学校(3年生)に復帰することとなったが、同月末ころから、同中学校の非行少年グループの者と交遊し、深夜徘徊、無断外泊を重ねた。

同年5月21日に再度同学園への入園措置がとられたが、翌日に同学園を無断外出し、同月23日には、非行事実記載のとおり、同中学校の非行少年と一緒に、神社の賽銭箱から賽銭を窃取した。同日同学園の職員らに発見保護された際には暴れ、同学園に戻っても直ちに無断外出し、家庭にも戻らず、友人の家で寝泊まりするなどしていた。

その後、友人の両親の説得で帰宅し、同月29日、母親に付き添われて家庭裁判所に出頭し、観護措置がとられた。

(2)  少年の両親は少年の2歳時に離婚して、母親が少年の親権者となっている。その後、父親は、少年と全く接触していない。

母親が飲食店等で働きながら少年を養育していたため、少年は、小学校入学前は保育園に預けられ、母親とふれ合う時間が少なかったほか、母親の内夫が一時同居して、厳しく体罰を加えたこともあって、小学生のころから、前記のような非行を繰り返し、母親の注意に従わなくなった。

少年は、平成9年4月に家庭に復帰した後は、母親が夜間の仕事を辞めて少年の監督に努めるなどしたため、しばらくの間、少年は行動を自制していたが、1か月も経たないうちに、同中学校の非行少年グループと行動をともにするようになり、深夜徘徊、無断外泊を繰り返し、結局、前記のとおり、本件窃盗(平成9年(少)第610号)を犯すに至った。

母親は、今後少年を指導監督することについて自信を失っており、他に、少年の指導監督を委ねるに足りる関係者はいない。

(3)  少年は、学習意欲にむらがあって、集中力に欠け、小学校の高学年になるにしたがって遅刻欠席が増加し、授業についてゆけなくなり、中学校も入学後3日間通学したのみで登校しなくなった。平成9年4月の中学校復帰後も、夜遊びが激しくなるにしたがって結局登校しなくなっており、現在の少年の状態では、学校生活への適応性に欠け、毎日自主的に中学校に通って勉学に励むことを到底期待できない状況にある。

性格面でも、少年は、自己の感情や行動を十分に制御することができず、短絡的に軽はずみな行動に出る結果となっている。

2  以上認められる事実に照らすと、少年の窃盗等の非行歴は小学生時から続いているもので、教護院入院後も無断外出を繰り返し、家庭に戻っても非行少年仲間の誘いを断れずに深夜徘徊するなど、健全な生活態度が全く身に付いておらず、少年の非行性は相当深刻なものである。また、少年は、家庭においても、母親の注意に従わない状態であって、母親の少年に対する行動の制御は今後も期待できず、無断外出を繰り返すなど教護院での監督にも服さないため、単なる開放的な処遇によっては教育効果が十分に得られない虞が強い。

少年は、当庁に出頭し観護措置がとられたことについても、一時、母親に騙された旨述べるなど、反省心が薄く、また、その理由はともかくとして、同学園に戻りたくない旨述べており、このまま同学園に帰園しても無断外出して、家庭にも寄りつかず、飲食費を得るため賽銭盗などの窃盗行為を繰り返す虞が極めて大きいことが認められる。

3  ところで、少年に対する強制的措置を許可するとすれば、現在入園中のb学園では強制的措置をとり得ないので、少年を母親のもとから遠く離れた教護院(国立e学院)に収容することになり、これが少年の心情に少なからず影響を与え、指導監督の効果を充分に上げうるか多少心配な点もあるが、少年の有する問題性は前記のとおり深刻なものであるから、相当の犠牲を払う覚悟で右措置をとることが必ず少年の将来のために役立つものと思慮する。

そして、前記のように、少年が教護院からの無断外出を繰り返し、発見保護された際にも暴れるなどの行動に鑑みると、強制的措置の期間として、あらかじめ90日間を許可することもやむを得ない。

4  なお、平成9年(少)第559号ぐ犯保護事件、同第560号ぐ犯保護事件は、いずれも、少年が窃盗等の触法行為により平成7年6月8日に教護院に入院したものの、無断外出を繰り返し、その間非行少年と行動をともにし、賽銭盗などを行っていたことから、窃盗等の犯罪を犯す虞があることを審判に付すべき事由としているが、少年が平成9年5月23日になした本件窃盗(平成9年(少)第610号)は、少年の右ぐ犯性が現実化したものであることが明らかであるから、右各ぐ犯はいずれも犯罪たる本件窃盗に吸収され、独立して審判に付すべき事由として取り扱うことはできず,これについては少年に対し処分をしない。

5  よって、平成9年(少)第610号事件につき少年法24条1項2号を適用して少年を教護院に送致することとし、同第614号事件につき同法23条1項、18条2項を適用して少年に対して強制的措置をとることを許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 河村隆司)

〔参考1〕 平成9年5月28日付け高知県立○○児童相談所長作成の送致書

記載の審判に付すべき事由(平9(少)559号)少年が2才の時に両親が離婚し、母にひきとられたが、母が仕事の関係で少年を養育することができず、養護施設に入所していた(S60.5~H元.3)。

小1の時より万引きや家に侵入しての窃盗があり、高学年になるにつれて問題行動がひどくなり盗みや弄火(空き家のイス、神社の注連縄を焼く)、畑の葉タバコを包丁で切り倒すこと等で警察より通告があり、H7.6月よりb学園に措置していた。

教護院の中でもH7~H9.1月で計15回の無断外出をくり返したが(その時には万引き、さい銭盗など何らかの盗みをしている)、H8年度にはやや生活が安定してきており又少年及び母の意向もあり関係者で協議の上、本年4月2日、措置停止とし、復学と家庭復帰を試みた。

しかし、4月後半より生活が乱れ、家へも寄りつかずc中の非行グループと深夜徘徊するようになり、4月25日には深夜学校への侵入もあり、警察で調べを受けている。学校でも遅刻、早退、欠席が多くなり、関係機関で協議した結果、5月21日に措置復活となった。

21日に教護院に帰るが、翌日、隙を見て無断外出し、翌23日昼発見保護される間にも、さい銭盗もしている。又、保護する際には暴れ、開き直りがひどく、同日夕方、職員が3人ついていたが、隙をついて再度無断外出している。少年自身反省心がうすく、教護院の指導にも服さず、行動に歯止めが利かない状態であり、このまま、発見保護され帰園しても再度無断外出をくり返し、その性格、環境に照らして、将来犯罪行為(万引き、さい銭盗など)を重ねる虞れが大きい(少年法3条1項3号イ、ニ)。

〔参考2〕 平成9年5月29日付け司法警察員作成の少年事件送致書記載の審判に付すべき事由(平成9(少)560号)

<1> 少年は、小学高学年から家出・深夜徘徊を繰り返し、保護者の正当な監督に服さず且つ家庭に寄り付かない性癖が定着した上、窃盗・器物損壊等の触法事案により平成7年6月8日、児童相談所長の措置決定で教護院に入院し現在に至っている。

<2> 少年は、同院から度々脱走を繰り返した間において、4月以降におけるスーパーでの万引き約20回、神社等での賽銭盗約4~5回、自動販売機荒らし1回、良心市荒らし1回等の窃盗並びに窃盗目的による小学校保健室への建造物侵入等の犯行が発覚している。(5月21日、教護院での聞き取り調査による)

<3> 当署においては、少年の所在捜査に併せ、右賽銭盗・自販機荒らし・良心市荒らし及びオートバイ盗の犯罪行為について捜査中である。以上のとおり、少年はその性格環境に照らして将来窃盗等の罪を犯すおそれがある。

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